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銀河英雄伝説という叙事詩を評価するに当たり、さしあたり初めにヨブ=トリューニヒトの再評価から手を付けたいと思う。

彼は劇中のあらゆる人物からそしられ、演出上においても最低最悪の政治権力者として描かれている。
その行動の多くは悪役のそれであるし、言葉もまるで悪役だ。
だが彼は詭弁家であり腹芸の達人だ。
彼の言葉を額面通りに受け取ることはできない。

物語の最後、彼はヤン=ウェンリーの遺志を継いだユリアン=ミンツと 同様の志を、かなり早い段階から抱いていた事が明かされる。
「名君の権威と手腕によって、帝国に民主主義を芽吹かせる」という構想だ。

その事実を元に、彼の悪行を弁護してみる。




バーミリオン会戦において、彼はラインハルト=フォン=ローエングラムに王手をかけたヤンに停戦を命じている。
同盟首都を襲ったウォルフガング=ミッタマイヤーらにより脅迫されたからだと作中の人物は解釈している。
これは彼のもっとも利己的な行動に見える。

だが「帝国の民主化」という目的を備えていれば、これは合理的な判断だろう。
もしも稀代の名君が失われれば、帝国は再び混迷の時代に突入するだろう。
これでは民主化どころか和平もおぼつかない。

ヤンは、民主主義を守るために、カイザーを殺さんとした。
この時、トリューニヒトは、全人類に民主主義を根付かせるために、カイザーを生かさんとしていた。

もし彼が権力を求めるのなら、かつて救国軍事会議のクーデターの時のように身をひそめ、ヤンが勝利したのち、政治的指導力を得る事もできたはずだ。
あえて議会に身をさらし、ヤンに停戦を命じたのは、彼の目的意識からではないか。

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トリューニヒトが帝国領侵攻決議案に反対票を投じた点、またヤンに対して幾度かの政治的圧力を加えた点、
またオスカー=フォン=ロイエンタールとの内戦を終えたカイザーラインハルトを強く非難した点からも、彼の目的意識が見て取れる。

彼は帝国領侵攻が「帝国の民主化」という目的に対してより良い結果を有むとは信じていなかった。
事実、帝国民は民主主義よりもパンを求め、帝国領侵攻によって「帝国を震撼たらしめる(=専制政治に対する不満と、民主主義への信頼を高める)」という目的は実らなかった。
彼がフェザーンや地球教徒から得た情報によって、このころのラインハルトを高く評価していたことがうかがえる。

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トリューニヒトはヤン=ウェンリーを敵視していた。
ヤンは幾度か軍人として不用意な発言をしているからだ。

ヤン=ウェンリーという人物の人柄をよくしる人間ならば、彼の不穏当な発言も取るに足らない皮肉だと掃いて捨てるだろう。
だが、ヤンの人柄を排して考えてみれば、彼は軍閥化を進める危険人物にも見える。
少なくとも彼の人柄を知りえない、同盟の文民たちはそう考えた。
政治家とは、個人の人柄を仕事の判断材料にすべきではないし、してはならない。

想像してみてほしい。
自衛隊や米軍の幕僚が「たかだか日本の存亡など個人の自由と権利に比べればたいしたことじゃない」と発言したら。
そして彼が独裁者になりうる人気と実力を備えていたら。

事実、ワルター=フォン=シェーンコップがそそのかしていたように、ヤンには独裁者になる機会が何度もあった。

ヤン=ウェンリーは良識的な人間だが、良識的な軍人ではなかった。
これはヤン自身も自覚しており、軍人の理想をヤンに重ねるユリアンをいさめている。

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彼が後のカイザーラインハルトを強く非難している点にも目を向けるべきだ。
オスカー・フォン・ロイエンタールが起こした内戦は、カイザーの持つ軍事的ロマンチシズムが引き起こしたと見ることもできる。
矜持などという合理性を欠く理由で、兵や民衆を損なうカイザーらに、オーベルシュタイン同様、トリューニヒトもいらついていたのではないか。

カイザーラインハルトは名君でありながら、その思想は民主化からは程遠いところにいるようにも見える。
そう思ったトリューニヒトはロイエンタールの前で語気を荒げたののではないか。


シェーンコップがイゼルローン回廊を通過するエルネスト=メックリンガーとの通信によって、帝国軍をセンチメンタリストと評し、ユリアンもまた帝国のセンチメンタリズムを戦略構想の一部に組み込んでいる事を語っている。

トリューニヒトは帝国軍がセンチメンタリストである事を死の直前まで洞察しえなかったため、ロイエンタールに殺害された。
ユリアンは帝国軍がセンチメンタリストである事を経験によって洞察しえたために、カイザーの信頼を得る事ができた。

リップシュタット戦役のロイエンタールの言葉を借りるなら「カイザーもまた感情に支配された人間だった」のだ。

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このトリューニヒトという政治家は多くの悪辣な手段を用いた。
腐敗した政治権力者たちを統率するために、不正な手段を用い、
目的達成のための政治基盤を固めるため、カルトや暴力組織を用いた。
それは正当化できない。
彼が悪役であるのは反論しようのない事実だろう。
だが目的を持たない、単純な権力志向者だと考えるのは早計ではないだろうか。
彼が帝国を民主化しようとしたのは、己の政治権力の拡大のためだとユリアン=ミンツは想像した。
だが、その評価は本当に正しかったのだろうか。


ヤンは生前「最悪の民主政治でも、最高の専制政治に勝る」と発言している。
トリューニヒトは、その最悪の民主政治の権化だ。

物語は専制政治が民主政治を打ち負かして終わりとなる。
しかし物語の最後に明かされたヨブ=トリューニヒトの秘めた思想と、ユリアン=ミンツの行動の合致こそが、ヤン=ウェンリーの言葉を強く肯定しているのではないか。







■2013年2月10日追記
アクセス解析見ると、「代議士名+トリューニヒト」で検索してくる人がほぼ毎日いる。
要するにそりが合わない相手をトリューニヒトと呼んでるだけなんだろうけど。
でもそれ、ちょっと違うと思うの。

トリューニヒトらしさとは何か?
・メディアや有権者には支持され
・(時には不正な手段によって)勝利する
・そして理念がある

例えば、金星人、シンスケファミリー、スケルター様。
それぞれ欠けているものがありますね。
単なるポピュリストや、拝金主義者にはまた別の二つ名が必要だと思うのよね。
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